雨の朝、10年の節目。予期せぬ涙と、足りなかったお菓子。

「雨の朝10年の節目予期せぬ涙と足りなかったお菓子」 50代
「雨の朝10年の節目予期せぬ涙と足りなかったお菓子」

退職日当日

いよいよ、その当日を迎えました。 窓の外は、あいにくの「雨」。 晴れやかな気持ちで最後の日を飾りたかった私にとって、その空模様は少しだけ心を沈ませるものでした。

車を降り、職場へと向かう。 何度も繰り返してきたこの光景も、今日が最後。二度と訪れることのない「最後の出勤路」だと思うと、胸の奥に何とも言えない重く、複雑な感情がのしかかってきました。

私は周囲に退職日をあえて公言していませんでした。「あわよくば、誰にも気づかれずそっと職場を離れたい」――そんな風にさえ思っていたのです。

課長も私のそんな願いを汲み取ってくれていました。 「最後のご挨拶、自分の課だけで小さい声で呼びかけますからね」 そう言ってくれていたはずでした。

ところが、いよいよその時。 課長の口から出たのは、フロア中に響き渡るような大きな、大きな呼びかけでした。

その合図とともに、自部署のメンバーが一斉に起立します。その動きは隣の部署にまで波及し、気づけば100名近い視線が私一人に注がれていました。

その瞬間、私の胸に去来したのは「感無量」という言葉だけでした。 つい最近まで抱えていた怒りや苦しみ、葛藤……。それらすべてが、その一瞬の光景で解き放たれていくのを感じて、涙が溢れて止まりませんでした。

用意していた少しだけ嫌味が入った次の文章でした
「10年間、こちらで多くのことを学ばせていただきました。 時には、私一人の力ではどうにもできないような厳しい状況や、眠れないほど悩む夜もありました。

ですが、そんな葛藤があったからこそ、今の『自立して歩き出したい』という強い決意に繋がったのだと、今ではすべての経験に感謝しております。

至らぬ点もあったかと思いますが、これからは一人の人間として、自分の時間を大切に、凛として生きていこうと思います。長い間、本当にありがとうございました。」なんて、もう口にすることはできません。
ただひたすらに、絞り出すように伝えました。

「長い間、本当にお世話になりました。ありがとうございました」

ありきたりで、何のひねりもない言葉。 それと同時に、私の中ではもう一つの「焦り」が渦巻いていました。

(どうしよう……お菓子の数が、全然足りない……!)

「そっと辞める」つもりで用意していたお菓子の数と、目の前に広がる100人の視線。そのギャップに、頭の中は真っ白です。

けれど、もう時すでに遅し。 私の退職を今この瞬間に知ったという、仲の良かった同僚たちが、目を丸くしてこちらを見ています。 私はせめてもの思いで、目が合った方々に、残り少ないお菓子を一つずつ手渡していきました。

「今日、退職だったの!?」と驚く彼らの顔。 感謝を伝えきれないまま、手元のお菓子は底をついていく。

なんとも歯切れが悪く、スマートとは言い難い幕引き。 思い描いていた「静かな退職」とはほど遠い、ドタバタとした最後の一幕でした。

今、自宅でこうしてブログを書きながら、 「もっと気の利いたことが言えたはず」 「お菓子、もっと準備しておけばよかった」 そんな反省ばかりが浮かんできます。

けれど、あの時、あの場所で、100人の視線の中で流した涙と、あの一言。 それこそが、私の嘘偽りない「10年間の結び」だったのだとも感じています。

明日からは、もうあそこへ通うことはありません。
雨が上がれば、新しい一歩。 「ひとり、凛と」生きていく物語の、これが本当のプロローグなのかもしれません。

【最後に】
明日からは、朝起きたらゆっくりストレッチをし、朝の空気を感じながらコーヒーを飲んでブログの構成を練ることから始めます

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